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彼は一方的に話し続けている。そして、そんな彼を彼女は見つめ続けている。いや、彼を見つめているというよりか、彼の方を向いているというだけで、彼女の目は虚ろだった。
「結婚なんて、仕事のためにするって奴もいる。地位と権力を得るために必要な儀式だとさ。でも、俺は……一緒にいたいからするものだと思っている。俺には今、そんなやつがいるから…。だから、断ろうと思う。いいよな?昇任なんて…。おふくろも許してくれるよな?」
彼はそう問い続けていた。
それでも彼女は口を閉ざしたまま、少しほほえむだけで、その笑顔は寂しい印象を与えた。
しばらく無言の時を過ごす二人。
「いっつも俺ばかりしゃべり続けて馬鹿みたいだな。もうそろそろやめにするか…。これじゃぁおふくろと同じだからな」
そういうと自分の事ながらラルドは一人鼻で笑っていた。
彼女は、静かに目を閉じ、自分の力なさに落胆していた。
「……お前は海にいる方が幸せか?俺はこのまま一緒に生活したい……お前はイヤか?」
独り言のように彼は唱えた。その声は小さく、水の音にかき消され彼女には届かなかったのだろうか。
彼女は何の反応も示さない。耳をふさいでしまったかのように、何も聞こえていないようだ。
ラルドは、寂しげに彼女をしばし見つめた。そして、無反応な彼女の髪をそっと撫でる。
「疲れてたのにごめんな……」
そう言い残すと水槽を後にした。
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