2日目 紙の名

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家には誰もいなかった。いつものことだ。 あたしの両親は共働きをしている。家に帰って誰もいなくて、一人で夕飯を食べるくらいもうとうに慣れた。 慣れたのとは少し違うかもしれない。あたしにとってそれは当たり前で、家族とはそういうものだと思っていた。 そうでない家庭――帰れば暖かい夕食と談笑のあるような――も存在すると初めて知ったときはいささか驚いたが、別に羨ましいとは思わなかった。 皮肉でもなんでもなく。 あたしはあたしの家庭が当たり前すぎて、寂しいとかそういう感情を抱いたこともなければ不自由な思いをしたこともない。 要するにやはり、イメージの問題だ。 あたしはベッドに腰掛けた。 そこはいつも通りのあたしの部屋だった。 家具も、積み上げられた雑誌も、使ったままで底にコーヒーの染みがこびり付いてしまったカップも、全てそのままだ。 彼はあたしにキャンディを渡してすぐに帰った。引き出しの中へと。 帰りは意外とスムーズに帰っていった。這い出てくるときにあれだけ時間を掛けたのは恐らく無用だったし、絶対にわざとだと思う。 あたしは引き出しを開けてみた。 そこには文房具や随分昔のプリクラが散らばっているだけだった。 未来からの悪趣味な来訪者の痕跡は、なにひとつなかった。 未来からの悪趣味な来訪者の痕跡は、なにひとつなかった。 たったひとつだけ願いをかなえられるとしたら? その問いに弱冠15才のマドカをして「金よ金」と言わしめる日本の拝金主義たる現実を、改めて見た。 使っても使っても使いきれないほどの金。イメージは難しくなさそうだが、実際それを手中に入れたとしてあたしに使いこなせるだろうか? そもそもあたしがそれを使って得るものとはなんだろう? マドカは言った。「喰う・寝る・ヤル」 もっとおいしいものを食べてもっといいところに住んで、いい男をはべらすのだろうか。 あたしはそんなものが本当に欲しいんだっけ?
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