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「美しくなりたいわ。何よりも、誰よりも」
ミナコ先生は迷う事無くそう言った。
あたしは混乱した。ミナコ先生は今すでに十分美人なのだから。
28才、数学教師。もともとの整った顔立ちに加え、肌にも髪にも爪にも十分手入れが行き届いている。
ミナコ先生の授業はわかりやすかったし、生徒からの人望も厚い。加えてこの春挙式も済ませた。
幸せな人生を築いている人だと思う。そんな人が何を望むか聞いてみたかった。そんな人がなぜこれ以上の美しさを欲しがるのかわからなかった。
そう伝えると、ミナコ先生は小さく微笑んだ。こういう仕草がとても魅力的だと思う。
「女ですもの、もっと美人だったらとも思うわ。でも、もっと総合的なものなの。
例えば振る舞いや気遣い。教養だってそうだわ。
要するに理想主義者なのね、私は。
理想に近づく努力は惜しまないつもりよ。でもたまに、それとは程遠い自分を見てとても落ち込んだりするわ。ギャップはなかなか埋まらないものよ。」
あたしは驚きを通り越して半ば呆れてしまった。
ミナコ先生程の人がそんなことを言い出してしまったら一体あたしはどうしたらいいのだろう。
未来から不気味な使者がやってくるほどろくでもないあたしに何ができるというのだろう。
いっそミナコ先生になりたいとキャンディに頼んだほうが話は早いのかもしれない。
「正直、自分の理想が結局どこに行き着くのかは解らないのよ。
完璧とはどういうものかも解らない。でも止まることができないのよ。泳ぎ続けないと死んでしまう魚みたいなものなの。」
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