第一章

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ある日、放課後何もする事のなかった俺は美術部に顔を出す事にした。 「ちぃす」 小さく挨拶して入る。返事はなかった。誰もいないのだろうか。 「あ、こんちは」 いた。キャンバスを見つめて筆を動かす女の子が。夕日の逆光でよく顔が見えない。挨拶は返ってこなかった。 (シカトかよ) そりゃ幽霊部員だから文句を言う筋合いなんかないんだろうけどちょっとムカついた。 (けっ、どんな下手な絵描いてんのか見てやる。んで帰る) 爽やかな名前の割りに性格は陰湿だとよく言われる。 (どれどれ…って) うまい。めちゃくちゃうまい。非の打ち所がない。こんな綺麗な桜の絵、初めて見た。感動した。空の色と桜の色が凄く綺麗で、風とか春の匂いが伝わってくるというか…こんな絵が描ける奴が同年代にいるなんて… 「すげぇ」 「わぁっ!びっくりした」 そこで初めて目があった。ウチのクラスの奴じゃない。どうしよう、あんま女子と喋った事ねぇー…とりあえず、絵を褒めよう、うん! 「え、と…すごいね、この桜の絵。俺感動した!」 「ありがとう、桃の絵なんだけどね」 これが倉田との出会いだった。
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