桜の樹の下で

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  「み、見てないの?」 「何をさ?」 克がしゃがむと、そこには誰もいなかった。 始業式前のざわめきが残るだけで、男子生徒のいた席は空になっていた。 「大丈夫か」 「う、た、たぶん、寝てただけ……」 これ以上注目を浴びるのは嫌なため、彼女は曖昧にして終わらせる。秀も克も気遣いしようにも大丈夫と突っぱねられて、不満げに席に着いた。 その後、一心不乱に机に消しゴムをかける雅の姿があった。 *** 始業式兼入学式は、なんとも退屈だった。 女子生徒が秀と克のことをかっこいいだとか怖いだとか噂はしていたけれど、さして興味の湧く話題ではない。むしろその噂している女子生徒の脚が、なんとなくカモシカに似ているという方が興味をそそった。 「ねぇねぇ、鈴木さん」 式の終わり、並んで教室から帰るところにカモシカが声をかけてきた。 「はい」 相手がカモシカであろうが、一応人間である。 へぇ、言葉が喋れるのか、と関心していると 「五十嵐くんと付き合ってるの?」 と、突拍子もない質問をされる。入学そうそうこんな質問かと、少しがっかりした。 「いえ、彼氏いない歴15年デス」 「えー、そうなのぉ?可愛いのに!」 そりゃ人間になりきれないカモシカからしたら人間は可愛いだろう…… 雅はそんな失礼な考えを頭を振って打ち消す。どうも、同性からの「可愛い」というのは素直に喜べない。特に今のニュアンスは褒めているようではない。  
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