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「じゃあさ、大貫くんのアドレス教えてよ!」
縮毛矯正かけたてであろう毛先をくるくるいじりながら、カモシカは詰め寄ってくる。
――鹿の蹴りは痛いらしい――
そんな馬鹿な考えが脳裏をよぎる。
「なんで秀のアドレスじゃないの?彼女いるか聞いたのは秀じゃん」
「だってぇ、二人付き合ってたらいいなって。そしたら大貫くんフリーじゃん?」
雅の頭はクエスチョンマークでいっぱいだ。自分と秀が付き合っていたからといって、克がフリーとは限らないのに。
「そういうのは自分で聞いたほうがいいんじゃないデスか。ほら、個人情報保護とか今うるさいし――」
「はぁ?なにそれ?マジうけるんですけど」
うけるとか言いながら、彼女の目は笑っていない。怖い。
すると、カモシカの周りの女子が口を挟む。
「おまえ調子のんなよ」
なんという短気!
「調子乗ってすいません」
「はぁ?バカにしてんの?バカにしてんべ?」
頷く取り巻き。
どうやらカモシカは、中学からボスのような立場らしい。一日目にして子分が出来たということか。つまり、雅が最も苦手とする分野の人間だった。
一人の女子が、二つに結った雅の髪を掴んで引く。
「いいから賀茂ちゃんにメアド教えてやれよ、ブス」
物凄い衝撃が――いや、笑撃が、彼女を襲う。
(カモシカの賀茂ちゃん……)
肩を震わせ、笑いを堪える。俯き、太ももをつねる。
その姿がどうやら彼女らには怯えているように見えたらしく、勝ち誇るような声で言い放った。
「てめぇ、あんま調子のってっと痛い目みるからな」
「す、すいませんでした」
謝ると、満足げに彼女らは去っていった。しばらく雅は身体を折り曲げて廊下の隅で笑っていた。すると
「あ、そこの君」
教師らしき男が彼女を呼んだ。
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