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――寝静まらない、夜。
夜に咲く繁華街。欲望の原色がネオンに渦巻く。
まだ夜は肌寒い。星の光りが、今宵はより一層輝いているのに、下の人間たちは誰も気付きはしなかった。
人工的な光の渦の中で、尖ったフォルムの、一際高いそのビルの先端に人がいることなど、無論知る由がない。
人が立ち入るはずのないビルの屋上。
「……愚図どもが」
少年のような風貌の者が憎らしげに呟いた。
下から吹き上げる風は、彼の長いコートをはためかせる。
少年のような、青年のような。濡れ羽色の黒い髪、幼い顔立ち、それに不似合いな鋭い目付き。文字通り見下した先には、ゴミのような人間の群れ。
その瞳は、月光に当てられて色鮮やかに輝く。
「白神君、不機嫌そうだな」
音もなく。
その背後に現れる赤い髪。
体躯は白神君と呼ばれた少年の頭一つ分余り。
ぴくりと少年の眉が動き、視線がなだらかに動く。
「貴様の趣味は盗み聞きか、鬼神」
あきらかに顔に合わない、低い声色と喋り方。
「いや、まさかまさか。」
赤い髪の男は肩を竦めた。零れた笑みに白い八重歯が見える。無邪気そうな顔立ちをしていた。
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