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「うるさいわ万年巡査!」
念仏のような言葉に耳を塞ぎ、彼女は一つ放屁をして脇をすりぬけた。
「臭!」
昨夜食べたニンニクレバニラ痛めの威力に畏れおののきつつ、裕一は雅の後を追う。
「ああもう!そんな走るとスカートの中が見えるぞ」
「どこ見てんのよ、痴漢!」
「ち、痴漢て」
「いってきまーす!」
「気をつけろよ、ったくもう!」
はぁい、と元気な声がオートロックの閉まる音に掻き消される。
裕一は精悍な顔を苦笑で滲ませながら、後ろ髪を掻いた。
「なんであんな小憎らしい性格に……」
ぶつぶつと呟きながらリビングへと戻る。スリッパの擦れる音だけが室内に響き、それが無性に孤独を呼んで、テレビのスイッチを押した。
朝のワイドショーは物騒な事件を騒ぎ立て、裕一はいつの間にか聴き入っていた。
最近、この地域には凶悪な事件が多発しており、それがまた彼の杞憂をかきたてている。祖父母とも疎遠な、親が早くに亡くなった雅の保護者は実質裕一のみであり、彼もまた社会人として多忙な日々を送っていた。
十も歳の離れた妹はどこかふわふわと浮いていて、それが気質であるのか、思春期特有のものであるのかは彼には解らなかった。ただ、危機感がないというか、隙が多いというか。
この昨今で、彼女が何らかに巻き込まれないかという不安から、彼は過保護になるのは当然のことのようでもあった。
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