桜の樹の下で

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  良い天気に恵まれた。 マンションから走り出た雅は自然と笑顔になる。 学校へは自転車で10分ほどであるが、彼女の家から絶え間なく桜花道が続いてゆく。 透き通るような花の色。 光り射す道には、見慣れた顔があった。 「雅おは」 いち早く気付いたのは、緑がかった髪をした狐顔の少年。バンダナを巻き、少なくとも真面目そうには見えない。ほっそりとしていても、同じ年頃の子に比べれば成長が早い。ハンドルを自力で曲げた自転車に跨がっている。無意味なことだが、彼にとっては重要なことらしい 「おはよ」 その傍にいた金髪の少年が、眠そうに声をかける。直毛に寝癖がついたままだ。 あらゆる学校の生徒が歩く中、緑と金の頭をした二人は異様に目立っていた。 「おはよ、克、秀。今日も麗しく変態のようだね」 「おま、どんな挨拶なん、それ。まじうっざいわードチビ」 口とは裏腹に、背が高い克は背中を丸めて吹き出す。身長百五十五に満たない頭を乱暴に叩かれ、彼女は少々やさぐれた。 「雅、髪染めた?」 そんな克を小突き、秀は風に吹かれる金髪を邪魔くさそうに見ながら、緩く癖のある雅の髪に触れる。 どこと無くぎこちない動きをし、彼女は頷く。ほわっと身体が浮くような感覚に、雅の心ははからずとも踊り上がる。  
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