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「おい、早く行かないと遅刻するぜ」
克が振り向き、自転車に跨がり構え始める。
少し風が吹き、桜の木々がざわつく。雅は自転車の荷台に飛び乗り、克にしがみついた。
「じゃー、あたし真ん中!」
「俺また後ろかよ。これきついんだけど」
「オーイ。文句ゆうなら秀が漕げよ」
「だってあたし後ろだとパンツ見えるし」
「うわ、誰も見ねーよ!」
秀は雅のスカートの裾を避けると、荷台の余ったスペースに足をかける。そしてそのまま自転車が漕がれるのに合わせて地面を蹴り、立ち上がった。
つまり三人乗りである。
ゆるゆると速度を上げる自転車の上で、風を感じる。花びらが降り注いだ。
自転車を必死の形相で漕いでいるのが、大貫 克義(おおぬき かつよし)。明るく無邪気だが、雅や秀に対しては少し意地悪さを垣間見せる。
とことん学校をなめていて、授業中は音楽を聴き、体育は私服で受け、教師にはタメ口を使う。
それでも何故問題にならないかと言えば、財閥だか何だかの一族の生まれだかららしい。色々と事情が複雑なようで多くは語らないが。
彼自身はそんなことを気にするふうでもなく、黙っていれば普通の男前であるのに、黙ることなく奔放に暮らしていた。
雅の後ろにいるのが、五十嵐 秀(いがらし しゅう)。幸か、不幸か。彼もまた一般人の星の下には生まれずに、学校始まっての天才児だった。
あらゆる企業や有名大学が彼の将来に有望を見出だしているという噂で、学園生活で金髪に染めていても暮らせる、ということに繋がっているのは間違いない。
彼は克義とは反対に、他人に対しては寡黙だった。雅と克義にだけは素を見せたが、学園の人間からは少し間を置かれていた。
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