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「ナギ、新しい部屋だよー」
少し間延びした感じに言ったのは、満面の笑みのミナトだった。
彼女はナギの冷たい指先を掴むと、少し引っ張って部屋の中に入るように促す。
そんな年上の女房にため息をついて、しかし不機嫌な様子はなくナギは靴を脱いだ。
古い三階建てのマンション、その三階の一室、そこが二人の新居。
たかが1Kだが、ナギはこの狭さに安心したものだ。
彼は広い家が嫌いだ、長かった孤独な一人暮らしから得たのは、自分の耳が、目が、届かない範囲に異様に警戒するという疲れる特技。
故に、この部屋は慣れれば彼もゆっくり休めるはずの狭さ。
何せその疲れる特技というのは、ただの神経過敏だとナギ本人が認める病的な警戒。
「……ミナト」
荷物を床に下ろした彼女が振り返る、そんな彼女を少し見上げた。
ナギの背丈は中学入学と同時に成長を止めた為、150センチしかない。
だからそれより少し背が高いミナトとは、並ぶとまるで姉弟のようだ、実際にそう間違われた事も少なくはない。
だがナギがそれで気を悪くした事もなく、ミナトも笑うだけだった。
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