新しい街と倦怠感

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四つ年上のミナトは、その童顔をナギへと向ける。 いつも呼びかければ笑顔、そんな、いつもの彼女に僅かばかり安心した。 「何?」 「カーテン着いてるなら、締め切りたいんだよ」 あぁ、とミナトは返事をして、手早く新居のベランダのカーテンを締める。 彼は昼夜問わず、カーテンを開ける事をまるで本能からのように拒絶するから。 シャッ、という軽い音にナギは息をついてやっとフローリングに疲れた体で座り込む。 5時間、電車を乗り継ぎやってきたこの四国の街、移動が苦手なナギはべったりと倒れた。 「ちょっとナギ、片付けは?」 「んー…」 生返事で彼が、暗に手伝いたくない、と告げる、ミナトへ送る視線は懇願する子供と変わらない。 彼は細身で、顔の造形も中性的、それで女に間違われる事もしばしば。 さすがにそれは困る、と彼はコンプレックスに認定していた。 だがミナトはそんな、小さな夫の静かな顔の裏にある激情家を知っている。 自分に無関心な彼は、家族に関しての事となると逆上して前後不覚に陥ってしまうのだ。 「私も休憩しよ、でもこっち来てよかったね」 引っ越しが苦手なナギはやや迷惑な表情で、何が?と問い掛ける。 ミナトは疲れた手足を伸ばし、彼の頭をかきまぜた。 「隣の部屋に友達いるし、街にはナギの悪友もいるし」 「悪友は確かだけど、俺は基本的にお前と二人か、一人でいるのが好きだ」 遠回しに友人に会いたくないと伝える、だが、ナギが変わるにはそれでは駄目だと彼女は唸った。 「イイコにならないの?」 「イイコって何だよ…」 無気力を剥き出しにしたナギがぼやく、イイコ、その響きは懐かしい人もいるだろうに。 彼はイイコという言葉に何の思い出もなかった。
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