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『おばぁどうだった?』
やっとの思いで家に着いた私に待ってましたとばかりに娘が聞いてきた。
『アルツハイマーだって』
『ふうん、治るの?』
『治んない』
『どーすんの?』
『どーすんのって、引っ越しだよここには3人で住めないでしょ?』
母の家は六畳二間の借家だ、私が借りて居る部屋は一応3LDKあるため、当面は私のアパートで暮らした方が良いだろう。
『えーっ!?おばぁ一緒に住むのっ!?ヤダッ!!』
フトドキなヤツがもう1人…。
さすが私の娘…。
ボケた母の異変にいち早く気付き、最初に迷惑を被ったのはこの娘だ。
まず、母は娘に対し『夜中に外出している。』とあらぬ疑いをかけ、激怒した。チャリンコの鍵は無くされ、食事はスパゲティ、もしくは出来合いの茶碗蒸し、目玉焼きといった単純明解なものが繰り返しに出てきたという。
あんなに料理に命をかけ、家で飲むお茶でさえ、山からドクダミを摘んで来て煮出していた母が見る影も無い。
頭は白髪のボッサボサ、爪は魔女のように伸び、風呂にも入らず、一日中布団に潜り込んで、ぼーっとテレビを見る始末。
そんな母がもどかしく、イライラが募ったのも無理はない。
母曰く、自分はボケては居ない、ただ物忘れが酷くなっただけだと思っているそうだ。
ああ、そうね、そうだったらどんなに良かったか……。
プリプリと怒る娘をとりあえず無視し、母のわずかな衣類だけを持ち、私のアパートに帰った。
母の借家は暇を見て少しずつ片付けよう…。
嬉し、楽しい3人生活の幕開けとなった 。
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