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とにかく会社に出勤したはいいが、昨日から今朝にかけての衝撃的な出来事に僕は神経が麻痺しそうだった。
お昼休みの出来事。
『敦史?オイ敦史?』
『へ?』
『へ?じゃねーよ。昨日、つぐみちゃんと何したんよ。』
『…い、いや、別に何も』
『あ、いやらしぃ~、いやらしい事を言えないような歳かよっ!』
『お前の想像自体いやらしいんだよっ。なぁあっちゃん。』
『ん?あぁ…』
『マジこいつ何なの?気力ねぇし。何、ケンカした?それとも別れた?』
『…。』
『そうか…じゃ、今晩飲み行くか!話聞いてやるよ。な、トシ』
『そうだね。気を落とすなよあっちゃん。』
『違うんだよ…そんなんじゃなくて…』
彼等は俺と同期の角谷亮平と坂本俊也。いつも話を聞いてくれて、逆に話を聞いてあげて、まぁ所謂親友って奴です。
『ちょっと!新聞くらい読んだら馬鹿二人組!』
そこに現れたのは一つ年下の綿貫まどか。
『うわっ、ウザッ!』
『何、綿貫何か知ってんの?』
『ちょっとこっち来なさいよ!』
綿貫は俺に気を使い二人を連れて別の場所に移動した。
だいたいどんな話していたのか察しはつく。
昼から外回りで出ていた僕を待っていたかのように亮平と俊也が近付いてきた。
『病院、早く行ってやれ。』
『でもまだ資料作成残って…』
『いいから行けよ!』
『でも…』
『そうだよあっちゃん、俺らがまとめといてやるって!なぁ亮?』
『うんまぁ、持つべきものはナントカって奴だな。飯おごれよ。』
『だから一言多いんだよ亮は。』
『…す、すまん』
二人の優しさに甘えてしまい、ひとまず仕事さえ手に付かない程の想いを押さえ、つぐみの病室に向かった。
部屋の外でつぐみのお母さんが泣いていた。
『あら、敦史さん』
『どうかしたんですか?』
『あの子、このまま一生私達の事忘れたままで生きて行く事になるのかしら。それ考えてたら悲しくて。』
『…』
言葉も出なかった。
確かにつぐみが一生記憶喪失のままだったら…。
そんな事、考えたくないけど…
僕とつぐみは近い将来結婚を約束していたのです。
その彼女の中に僕が居なくなってしまった状態では今居る僕の存在なんて無意味なのだろうかと考えさせられてしまう事もあった。
だから何も言えなかった。
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