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事故現場となった場所に立つ僕とつぐみ。
『…ここ?』
『ここ。』
『どんな感じだった?』
『どんなって…』
説明に困っていたその時だった。
『あー、おねえたんだ~。』
偶然にも当時つぐみが助けた子供がお母さんと通りかかった。
僕は正直その子供が憎かった。
でも、所詮子供の事だからとグッと我慢した。
『あの時の?…本当にありがとうございました。何と御礼を言ったらいいのか…。』
と、そのお母さんは語り出したが、不機嫌そうな僕を見つめてつぐみはこういった。
『もう大丈夫ですから。失礼します。』
つぐみは僕とは違って大人だ。
冷静な判断が出来る。
まぁこの場合、そう言わざるをえなかったのかも知れないが…。
『私、少しづつ何かが見えてきてる気がする。でも、まだぼやけてて、自分の過去がはっきり見えない。だから、不安になったりもするけど、敦史さんがいるから大丈夫だよ。』
『あの…』
『何?』
『ちなみに昔つぐみはあっちゃんって呼んでたんだよね。だからあっちゃんって呼んで欲しいなぁ。』
そう言うとつぐみは小さく頷いた。
『うん。わかった。あっちゃん。』
つぐみを家まで送り届けたその時、ちょうどお父さんと一緒になった。
『いや、敦史君は本当につぐみの事を大事にしてくれているから安心してるんだよ。』
『いえ、そんな…。』
そんな会話をしていた場面でつぐみが笑顔でお父さんに話始めた。
『お…父…さん?』
『な、なんだいつぐみ?』
『私、時間かけてでもお父さんやお母さん、そして敦史さん…ううん、あっちゃんの事を思い出して行くからね。ごめんね。』
お父さんはその場を立ち去り、洗面所で泣き始めた。
僕もそんなセリフをつぐみの口から聞く度にせつなくなるよ。
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