記憶辿ル日々

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記憶辿ル日々

2007年3月、彼女は退院したが、やはり記憶は戻らない。 ただ今は更に辛い現実と向き合っていく事で頭がいっぱいだった。 休みの日の出来事。 『つぐみ、どこかご飯食べに行かない?』 『ご飯…ですか?』 『どしたの?』 『ちなみに私ってどんな食べ物が好きだったんですか?』 『えっとねぇ~、なんだろ、あんまり解んないや』 『…』 『ごめん』 『別に謝らなくても…』 『あ、そういえばよくラーメン食べに行きたいって言ってた』 『あ、好き…かも』『じゃいく?』 『…はいっ。』 少しづつではあるがコミュニケーションが取れるようになってはいた。 だいたいつぐみを見てると自分を思い出す為に必死だなって感じ始めていた。 『私の趣味とか解る?』 『読書。しかも文字がやたら細かくて本自体が小さい奴ね。』 『小説?そういえば家?に沢山あったような…』 『そうそう。』 『へぇ~。そうなんだ。』 一瞬つぐみの顔が悲しそうに見えた。 『後はねぇ~』 『もういい。』 『…え?』 『なんか、敦史さんが私の事知ってるのに私自体が私の事解らないなんて…』 『…。』 『なんか私、変ですよね。』 『変じゃないよ。』 『えっ?』 そう言いながら僕はそっと彼女を抱きしめた。 『つぐみが忘れてしまった現実を少しでも取り戻す事が出来るなら僕は諦めないから』 『敦史さん…』 『よぉ敦史!』 たまたま亮平が通りかかる。 『あ…俺亮平っていいます。ってなんか変かなぁ?』 『ふふっ。変じゃないですよ。よろしくお願いします。』 つぐみが久々に笑った。 しかも僕のセリフの使い回しで。 でも、亮平、サンキュー☆ 『あれ?綿貫?』 後ろから綿貫が歩いて来た。 『もー!歩くペース早いよ亮!』 『あれ?お前らもしかして…』 『え?ちが、違うよ。飯食べに来ただけだって。なぁ。』 『本当の事言っちゃえば?』 『…どうなのよ?亮ちゃん?』 『…まぁ…そんなとこです。』 『あれぇ~、昔そんな事人に言えないような歳じゃね~だろとか言ってなかったっけ?』 『かっ、彼女だよっ。』 『やっぱり。』 『だって《前から好きだったんだよ》って言われたから…』『そうなの?綿貫』 『ぎゃ、逆だって!馬鹿亮!』 『うるせ~な』 『…なんか、楽しそうですね』 つぐみがまた悲しそうな表情になった。
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