1,オペレーション・ミラージュ

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 一月八日 日本 群馬県  朝陽が昇り、霞んだ空が晴れてようやく暖かみが帯びてきた頃、勝野汐里は目覚めた。内陸にある群馬は、山に囲まれているために、東北地方ほどひどくはないが、それなりに冬は冷え込んでいた。  彼女――汐里はいつもの通り、ヒーターのスイッチを入れて朝食の準備をする。準備と言っても一人暮らしなのでトーストや目玉焼き、珈琲などをテーブルに出すだけだ。  汐里は十時から十七時まで、それから二十時から二十三時までの間に二つのアルバイトでお金を貯めていたため、経済的には余裕のある暮らしだった。  そして、いつもの様に朝食を食べ終わり、ソファに腰を下ろしてテレビの電源を付けた。一日の半分以上を外で過ごす彼女には天気予報を見るのは習慣付いていた。だが今日は何故か天気予報がなかなか始まらない。どうしたのだろうか、と思い画面に見入っていると、ニュースが戦争の報道に変わった。  『ロシア連邦が降伏を宣言しました。今朝午前三時、日米連合軍によるロシア連邦の首都、モスクワの制圧作戦が開始されました。 モスクワ北部に展開した両連合軍とロシア軍は激しくぶつかりあい、両陣営の被害は共に三桁に達したと見られています。  また、午前五時過ぎ、激化する戦闘の中で別動隊がロシア軍総司令部を制圧した事により、戦闘は終わった模様です。  現在は捕虜や街の被害者の救助などの任務に両軍とも当たっているようですが、これでユーラシアの勢力図は大きく変わり、首都モスクワは今後の戦争の中で重要な拠点に――』  汐里は最後まで聞かずにテレビを切った。そして不安な表情で立ち上がり、薄いカーテンを開けた。昇った太陽の光を辺り一面を覆った雪が眩しく反射させる。  「……輝」  天気予報を聞くという些細な事は彼女の頭から消え去り、彼女の心は今頃戦地で戦っているであろう恋人の事を思った。  一年半前に流れるように開戦になり、日本は半ば強制的に戦争に参加、自衛隊が軍に名称を変えた途端に軍に入ると言って――。  彼女は静かに思い起こす。  最後にあったのは去年の夏。あれ以来連絡は何もない。無事だと思うけど……。  もう半年以上連絡が取れないせいか、汐里の不安は募る一方で、彼女の瞳を曇らせていた――。
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