1人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
ロシア連邦モスクワ 日米司令部
薄暗い部屋に何人かの人影がある。今回のオペレーション・ミラージュを裏で指揮していた者たちだ。陸軍と空軍の幕僚。そして――。
「で、どうだったんだ?」
日本軍の総帥、本多慎悟の言葉を通訳が言い直した。
直立不動のまま立っていた男が口を開く。英語で報告をし、言い終わると米陸軍将校に退室を命じられ司令部を後にした。
「クルード・ブランカート陸軍大尉。第07ファティマ兵団所属、スナイプアロー小隊隊長です」
米陸軍将校が本多慎悟に小さな声で言った。
「優秀なのは認めるが、無愛想だな」
と、彼は率直な感想を述べる――。
薄暗い司令部から出た男はため息を吐いた。男のやや茶色い色素の薄い髪の毛は癖毛なのか、あちこちに跳ねている。長めの垂れた前髪から覗かせる瞳は憂鬱そうな表情をさらに強調するかのような淡いブルーだった。
「久しぶりだな」
突然声がした方向を振り向くと、日本空軍中将を表す階級章を胸に付けた男が立っていた。
「クルード・ブランカート陸軍大尉、か」
男は彼の制服に付いている階級章を見やって言った。
「確かこの前までは海軍上等曹長だったと思ったが……。今では陸軍大尉か」
その男は笑みを浮かべて彼に近付く。また、当のクルード・ブランカートは見覚えのあるその顔を捉えて敬礼した。
「お久しぶりです。紺野さん」
アメリカ人だと思われるその青年は先程の司令部内での会話と打って変わって達者な日本語力で違和感無く言葉を発した。
「クルード、何故軍を抜けなかった?」
微かに険しい表情で紺野と呼ばれた男は青年を見た。
最初のコメントを投稿しよう!