2,それぞれの思い

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 1月15日 英国 ベルファスト  ノース海峡の境目、港町として栄えたベルファストはいつもと変わらず、地方特有の穏やかな雰囲気で包まれていた。  宗教の対立で紛争が絶えない地域でもあるが、そんなことは微塵も感じなかった。  新時代の訪れを予感させる中、未だに古典的な街並みを残すその場所は、人々の心を落ち着かせた。  夕暮れ時の茜色に映える空の下、街頭の間を人々の声が響き、優しい風が吹き抜ける。  全地球規模の戦争が嘘のように、そこには確かに平和があった。陽も落ち始め、東の空に月が顔を出し、南西には金星が浮かぶ頃、仕事帰りの者が酒場に足を運び騒ぎ出す。  サッカーボールを転ばし遊んでいた子供たちは家路に着き、クルージングに海に出て行く者や帰って来る者が港を行き交う。その街には全くと言って良い程、戦争の影はなかった。  その日、皮肉な神の悪戯が降りるまでは――。  戦争が始まった後も、英国の治安は安定していた。米国との不可侵条約の為だろう。  英国海軍の極一部がベルファストに駐屯していたものの、その防衛力は皆無に等しかった。  しかし、その割りに街は大きく、拠点として使えるような核シェルターも地下に設置されている為に、このベルファストの現状を知る他国の者がいれば必ず支配するだろう。  それだけの設備と利用価値がそこにはあった。しかし今は手薄な警備により、陥す気なら僅かな戦力でも守備隊を壊滅させる事は可能だ。  一番の魅力はやはり核シェルターであり、有効利用すれば鉄壁の防御を作る事が出来る。  容易に手に入れられ、強固な鉄壁を持つことができる。  そんな場所はやはり、狙われてしまうのだろう――。
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