ACT.1 青天霹靂

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 凪咲の双掌が男を突き飛ばす。  軽い身のこなしで崩れた体勢を整えた。 「っとと。意外に力強いね」 「それは……何?」  依然、靄を帯びた掌が事の不気味さを伝える。  握った花は燃え上がり、灰となって崩れ落ちる。 「コレか?」  「ボッ」と音を立てて火柱が上がった。 「お前が着いてくると答えれば、教えてやらない事もない」 「これは取引じゃない」  身を翻して公園をあとにする。  燃える景色を背景に、ゆっくりと足を運ぶ。 「お前が断れば、お前じゃない誰かが不幸な目に遭う」  ピタッと足が止まり、鋭い視線が悠志を刺す。 「そんな事したら許さない」 「なら、従えばいい」  男は笑った。  怒気のような異様な憤慨が凪咲を満たす。 「それに俺は許されなくてもお前を連れていく。あっちの世界を知れば、俺に感謝して従いたくもなるさ」  ニヒルな笑顔が凪咲の視線をくぎづけにした。  その視線は、怒りと羨ましさのような不穏を語る。 「私には空がいる」  悠志の表情が曇った。 「風守空……悪魔か」  凪咲の眉間に皺が寄り、潜めるように目を細くする。 「藤崎くんまでそんな事言うんだ」 「あいつの素性を知れば嫌でもそう思うさ」  凪咲は悠志の言葉が指す意味を探るが疑問は更に深まり、更に知ろうとすればうやむやに掻き消された。  今度は悠志が背を向けて右腕を適当に上げて後ろ手に手を振った。 「明日もう一度だけ聞く。それまでに心を決めておけ」  横顔から覗く瞳は常に余裕が満ち溢れており、紡ぎ出す言葉は全てが上手くいくかのような不信感を抱かせる。 「理性のままに生きろ」  そう言って男はいなくなった。  揺らめく緑炎は鎮火し、変わりに黒炭が公園に広がっていた。  蝉は依然と鳴き喚き、悲しみの予兆を匂わせていた。
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