ACT.2 諸行無常

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 どれだけ夢が現実になって欲しいと望んだか。全ての人の願い。  それがどれだけ愚かで嘆かわしい幻想なのだと周りに罵られようとも、凪咲の目の前にはそれが広がっているのだから、それは最早愚行ではない。  毎日やってくる朝昼晩。そのいつもに潜んでいた特別に、凪咲は駆り立てられる。  内に秘めていた想いが込み上げてくるのを感じて、今一歩の所まで歩んで来た理想郷の前で尻込みしていた。  手を伸ばせば届く距離にあるそれ。触れれば二度と戻る事の許されない日常。皆との生活に別れを告げる。  今と未来を天秤に掛けて、その傾きを見れば一目瞭然。  凪咲は藤崎の"理性のままに生きれる"のだろうか。と、男の言葉を思い出しながら脳裏に浮かべた。  ただそれが理想郷への一歩を踏み出させないでいる。  日常が移り変わるのは必然の理。それを知ってはいても変化を恐れてしまう。  しかしそれでも行くのだろう、と己の歪んだ思いの強さに飽きれる。男に従ってさえいれば広がる世界が眼の前に広がっているのだから。
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