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「しょうがないじゃん、付き合ってぶっ」
再び愛の頭に手刀が減り込んだ。
性懲りもなく同意の言葉を繰り返す少女は、その結果が導き出す自らへの叱責を込めた手刀を敢えて受け、その上でもまだ男性との仲を知らしめたいのである。
「もう、痛いってば」
「はいはい」
最低限の抵抗も軽く流され虚空に消える。
白を基調としたブレザーに色取りどりのアクセントを添えた幾つもの装飾。
二人の少女はそのブレザーに身を包んで揺られていた。
「私だってね、空さえいてくれれば……」
凪咲の漏らした言葉を聞いた途端、愛の身体が硬直と微々たる震えに変わる。
「ま、まだ彼の事を?」
「うん」
即答。
今まで以上に陽気な笑顔で雲間から射す光とその下に広がる街並みを見渡す。高地に設置された公園からは街が一望出来た。
「空は絶対あんな事しない……愛だって、勘違いしてるだけ」
不意に流れ込んだ一つの会話が、二人の間の空気を重くする。
木々を揺らし、髪を靡かせていた風が嘘のように止み、代わりに沈黙を置いていった。
「ごめん……そろそろ帰ろっか? ホントごめん、気にしないで」
俯き顔を上げようとしない少女に気をかけ、言葉を選定するが少女の反応は鈍い。
「風守くん……か」
かすれるような小さな声は、確かな余韻を残しながら広がっていく。
「帰って来たら、いいのにね」
「えっ?」
予想だにしない言葉が紡がれ、動揺を露にする。
「うん……」
ゆっくりと加減を弱くする動揺は相槌の意味を不覚した。
それから二人は徐にブランコ台の上に立ち、大きく蹴って飛んだ。
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