2人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
この体験が、後にも先にも「いちばん」の恐怖だった。
金縛りなんか慣れてしまっていて、私がほぼ毎夜そんな状態であることも周囲に知れていた、ある夜。
認識出来たのは
「手」
だけだった。
青白く、薄ぼんやりと発光している――手。だいたい肘あたりから爪先までの――手。
何本も、何本も、何本も、何本も、なんぼんも。
手だけがぐるり、私を囲むようにあった。
体は金縛りが支配していて動かない。無数の手は私の足を、腕を、首を掴む。実際に掴まれているような感触なんてない。だけど私は掴まれていて、そして
引っ張られた。
身体の奥底にある、実体にはない意識だけのようなモノが、ふわり、引かれて体から抜けそうになる感覚。ぞくりとした。何が引っ張られているのか、何が体から抜けようとしているのか、直ぐに分かった。
ヤバイヤバイやばい!持ってかれる!連れてかれる!!
意識だけでそれを踏み止めた。体に意識させて、体から出ていかないように戻るように。無数の手から感じる力に必死で抵抗する。
体に戻れ!出るな!
嫌だ!帰れ!私はいかない!帰れ帰れ帰れ!!
自分自身に強く命令して、無数の手には強く罵倒だけを繰り返して、ビクリ、一瞬だけ痙攣するように動いてくれた体の隙をついてベッドから起き上がった。
手、なんてもうない。
冷や汗で寝間着が冷たかった。呼吸も荒い。連れていかれそうになったのは初めてだった。怖い、どころの話じゃない。もしかしたら…死んでたかもしれない。
怖い。
怖い。
なんだよコレ。
こんなのってないよ。
こんなの反則じゃん。
今回ばかりはさすがに、このままベッドで二度寝…は精神的にムリがあった。深夜2時、母のベッドへと逃げ込んで、夜は明けた。
最初のコメントを投稿しよう!