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私は海が環境汚染によってどれくらいのダメージを受けているのか調べに、あの日も海に行った。
あの日の海はいつもより色が濁っており、嫌な臭気が鼻についた。
あの子は浜辺で倒れていた。
私は背丈や体を見て5歳くらいの女の子と推測した。
何故なら顔は爛れていてよくわからなかったからだ。
よく見たら体にはうっすらと鱗が付いていた。
この村では見たことない…という事はこの子は海から来たのか…学者である私はあまりに非科学的で目眩をすらしていた。
『人魚姫とは似ても似つかない顔だな…』
私はそうつぶやき、少女を家に連れて帰った。
少女は目を覚ましても言葉を話せないようだった。
常に俯いていた。
たまに外に連れ出すと村の子供達に『醜い化け物』と罵られたが、少女は表情を変えなかった。
私が言葉を教えるとそのうちに少女は言葉を少しずつ喋れるようになった。
初めて喋った言葉は『みにくいの?』というものだった。
私は気付いたら抱き締めていた。
この子は私が守らなければならない、何故かそう感じていた。
少女の顔は少しずつ元に戻っているようだったが、それでもまだ酷いものだった。
少女の顔を見て、村人達はとうとう私達に出ていけと言うようになった。
私達は村のはずれに引っ越して人目に付かないように暮らした。
それなのに、ある日村人達が松明を持って家を囲んでいた。
『出ていかなければこの家ごとお前らを燃やしてやる』。そう叫んでいた。
私は家の前に出て叫んだ。
この子は海で平和に暮らしていたのにそれを壊したのは人間じゃないか、この子の顔はそれを物語っているというのに、と。
しかし、村人達はそれを掻き消すくらいの声で私達を罵り、物を投げ付けた。
横でうつむいていた少女は泣きながら、『ごめんなさい』と力なく言った。
それを聞いた時、私はこの村を出ていく決意をした。
行くあてなどなくてもこの子を守らなければならない、そう強く思った。
私は最低限の物を手早く用意して、少女の手を引いて歩きだした。
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