月光アレルギー。

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  夜の冷えた空気を肺一杯に吸い込むと、体の芯まで心地よく体温が下がってくる。糸をピンと張ったような空気に思わず背筋がシャンとしてしまう。   『夜に浮かぶ灯りの一つ一つの中に幸せがある』、そんな事を考えてしまうと、その灯りの一つに吸い込まれたらいいのに、なんてぼんやりと考えていた。   夜の帳は空を被い尽くしていた。 その色は漆黒ではなく濃紺と言った方が的確だろうか。 月の前に立ちふさがっている厚い雲はその光を吸収しきれずに自らを照らしている。   「月光アレルギー…ねぇ」   少年は呆れがちに、呟いていた。       「――どうして僕は夜、外に出られないの?」 「あなたはね、月光アレルギーという病気で夜外に出ちゃいけないの」   こう言った母親も、そして父親もみんなからそう言い聞かせられてずっと育ってきた。家の中でも夜にカーテンを開けれないような仕組みになっていた。 世の中には太陽の下に行けない子がいるようだけど、僕は逆にその子たちが見ていた夜の世界にずっと、ずっと憧れていた。   だから、12歳になった今日、家を飛び出して夜の中を走ったんだ。   アレルギーだから、やっぱり肌が赤くなったり、痛くなったりするのかな、と心配したけど、症状は意外なほど出てこなかった。   夜の世界はネオンで、電気で、こんなに明るい世界だとは思わなかった。テレビで見てたものとは全然違う。夜空に咲き誇る花火とかもきっと本当に綺麗なんだろう。   昼間の太陽の熱を出し切った冷たい地面に足を放り出し、そんな事をぼんやりと考えてると遠くからパトカーのサイレンが聞こえ、ギクリとした。が、すぐサイレンの音は小さくなっていく、どうやら無事に遠ざかっていったようだ。   家を抜け出た事はもうバレたのだろうか。思わず家を出るときに急いで羽織った黒のベンチコートをぎゅっと握り締める。表面のナイロンは落ちる汗を吸収せず、握り締める手はわずかに震えていた。   風は強さを増し、厚く重い雲をも少しずつ移動させていく――。  
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