もう、戻れない

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あたしは、凍り付いた。 なんで? なんで、和史がここにいるの? 和史は、あたしが前に住んでたマンションしか、知らない。 このアパートの場所は、知らないはずだ。 あたしの頭の中には、疑問しか残っていない。 疑問と驚きに占拠されている。 置物の人形みたいに固まっているあたしを、和史はマジマジとみて、口を開いた。 「久しぶりだな。元気にしてるか?」 和史は、あたしに近づいてくる。 あたしは、ツカツカと歩き出し、無視したまま、和史を押しのけた。 バッグから、キーケースを取り出し、206号室のドアに差し込む。 「ちょ、待ってよ、なつみ!なつみに、話したい事があるんだ」 和史が、あたしの左腕を思い切り掴む。その反動で、バッグが地面に落ち、中のものが散乱した。 「ふざけないで!今更何なのよ!」 あたしは、和史を思い切り睨みつけると、力いっぱい左腕を掴んでいる和史の手を振り切った。急いでカバンの中身をかき集める。 鍵を開け、部屋の中に入ると、バーンと強くドアを閉めて、チェーンでロックした。 玄関の扉と、背中合わせのまま、そのままその場に座り込んでしまった。
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