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「こんなところじゃ話せない……。とりあえず、中に入れてくれ……お前を責め立てるような事は言わないから……」
和史の声は、震えていた。今にも、泣き出しそうな寂しい声。
こんな、和史の声を聞いたのは、ななかを妊娠中に和史が、あたしの部屋に来た時以来だ。
「……分かった。開けるよ」
「ありがとう」
あたしは、そっとチェーンを外し、ドアを開けた。
よく見ると、やつれた表情の和史が、ドアの隙間から垣間見えた。
和史、こんなに血色悪かったっけ?
1ヶ月ぶりに会った和史は、頬がこけて、目のしたには黒い大きな隈、目はウサギ並に充血していた。
あの、口説けば落ちない女は居ないという百戦錬磨の和史からは、想像もつかないような顔だった。
「汚いとこだけど……」
あたしは、和史を中へ迎え入れた。
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