もう、戻れない

11/26
前へ
/394ページ
次へ
「あたしでさえ、和史の両親に会ったことないのに、ななかをそこに連れていったなんて、普通じゃないよ。修羅場になるの、目に見えてるじゃん。なんで託児所とか使わないの?」 あたしは、呆れ顔で和史に言った。 フツーはそうでしょう? わざわざ、茨の道を歩くようなこと、フツーの人間なら避けたいはず。 しかし、和史は敢えて、それを選んだのだ。 あたしには、訳が分からなかった。 「ななかが、託児所には行こうとしなかったんだ。『ママは?』ってばっかり聞いて、俺が連れて行こうとしても、頑なに拒否して……」 「そしたら、日増しにななかの様子がおかしくなってきた。夜もなかなか寝付こうとしなくて、いつも何かにうなされてる。『ママ、ごめんなさい』ばかり、譫言のように言ってるんだ。 次第に独り言も多くなって、壁にぶつぶつ何か呟くようになってって……」 すると和史は、オイオイとしゃくり上げるように泣き始めた。 もう、限界なんだ……と、あたしは和史を見て悟った。 あたしは、和史にCLATHASのタオルハンカチを差し出した。 和史は、無言でそれを受け取った。
/394ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4196人が本棚に入れています
本棚に追加