ある夜

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ある人から聞きました。 悲しみは拭わなくてもいいと。ただそのままでいいのだと。 すっと、何かがはまったような気がしました。 悲しみは拭えば拭うほどに、その剥き出しの刄を見せる。 受け入れることでしか、僕は悲しみを受けとめきれない。 そのままでいい。その通りです。 僕には、それしかできない。 彼が悲しみを共有したいのは、私ではない。 村山由佳氏が言いました。 悪戯に悲しみを振り蒔いても、それは苦痛でしかないのかもしれません。 悲しみの種を蒔けば蒔いた分だけ、悲しみを共有できるまで、育てなければならない。 悲しみの性質を間違えば、その分だけ、僕は悲しみを追体験しなければならないのです。 或いは、今の悲しみまで、相手を引き上げなければ、それはまた、意味のないものになってしまう。 相手の気持ちが何であれ、それが善意であっても尚、受け手は僕です。 悲しみは、歓びのようには分かち合えない。 悲しみは、受け入れるしかない。 それはなんて、悲しいことなんでしょう。
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