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『大きくなったら夢を叶えて一緒にいろんなものを見ようね』
幼い頃に少女と交わした約束を何年かぶりに思い出した。
お互いに、イチ、ナノカと呼び合い、毎日一緒に笑い転げて過ごした日々。
父親が他界し、引っ越した先で忙しく駆け抜けていく毎日の中で、いつしか心の奥底にしまい込んでしまっていた遠い約束。
思い出したのは、母親が死に、十年ぶりにこの町に戻ってきたせいだろうか。
高遠一夜は、十歳まで過ごした懐かしい故郷の景色を眺めながら、そんなことを考えていた。
昔と変わらない町並みに、心が自然と和む。
確か、ナノカとよく遊んでいた河原はここだったよな?
一夜は十年前から大切に持っている地図を広げて、思い出の河原を確かめた。
この地図は、ナノカが描いたもので、一夜が引っ越す時にプレゼントされたものだった。
ところどころすり減ってはいたが、それでも、いまだ描かれた線は、不思議なほど鮮明だった。
「なんか宝の地図みたいだな」
その地図の左下に記された『イチ』『ナノカ』という幼い文字を見て、一夜は小さく笑うと顔を上げた。
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