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「う~ん。いい天気!」
奈乃花は河原に着くと、地面に杖を置き、大きく手を広げて伸びをした。
飛行機雲が弧を描くように浮かんでいる青空。
太陽の光が優しくその顔を照らしだす。
一夜は複雑な思いで、その笑顔を見ていた。
「風が気持ちいいね」
「あ、ああ」
「なーに?なんか本当に元気なくない?」
「いや、元気!元気!」
「そう?なら、いいんだけど」
奈乃花はそう言うと、手探りでゆっくりと土手に腰を下ろした。
一夜も続いてその隣に座る。
「昨日はゆっくり眠れた?」
「うん…ナノカは?」
「私?私はぐっすりだよ!イチを部屋に案内してから、そのまま私も自分の部屋にいって寝ちゃったもん」
それは嘘だった。
悲しい嘘だった。
奈乃花は両手を合わせ組むと、もう一度前へと伸びをした。
「ナノカ」
「うん?」
「あのな…」
「なーに?」
「おまえ、本当に歌手になる夢、諦めたのか?」
「えっ…」
「本当はまだ…」
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