5)約束

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 奈乃花は両手を前に出すと、会話を中断するかのように、軽くパンッと手を合わせた。  「もう!それなら諦めたって言ったでしょ?もういいの。私は今のままで十分幸せなんだから」  一夜は少し言うのを迷ったが、思い切って切り出してみた。  「…じゃあ、なんで昨日の夜、この場所で泣きながら歌ってたんだ?」  「えっ……見てたの…」  「ごめん」  「…いいよ。そっかぁ。ミスっちゃったなぁ。イチに見られてるとは思わなかった。そっかぁ…」  奈乃花はうつむくと、目を閉じ、ゆっくりと顔を上げた。  「…うん。本当はまだ歌手になりたいよ。すごくなりたい」  「だったら…!」  「でもね、怖いの。光のない世界でやれることなんて、だいたい決まってる。私の部屋、十年前と何も変わってないでしょ?私の時間は光を失ったあの日から止まったままなの。ずっと不変の世界。その世界から出たら、何が待ってるかわからない。こんな状態で頑張れないよ。叶わない夢なら見ない方がいい」  「ナノカ…」  一夜は真っすぐ奈乃花を見つめた。  奈乃花は空を仰いで悲しげな表情をしていた。
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