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その夜、奈乃花は一人考えていた。
頭に思い浮かぶのは一夜の言葉だった。
『俺がおまえの光になってやる』
奈乃花の心は揺れていた。
歌手になるという夢。
一度は諦め、心の奥底にしまいこんだものだった。
それは。
一人では勇気が持てなかったからだった。
夢を見て、もう二度と大切な何かを失いたくはなかった。
イチの言葉。
信じて、もう一度夢をみたい。
自分自身で光を探したい。
でも。
怖い。
すごく怖い。
だけど。
………。
動けないから辛いんじゃない。
動かないから辛いんだ。
言えないから苦しいんじゃない。
言わないから苦しいんだ。
見えないから進めないんじゃない。
見ようとしないから進めないんだ。
………。
奈乃花は葛藤していた。
迷いや不安。
闇に閉ざされた奈乃花の目には光はなかった。
しかし、今、光が消えた奈乃花の世界に、一筋の光明が見えようとしていた。
確かに、心に光が灯り始めていたのだった。
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