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「ただいま」
「お帰りなさい」
奈乃花の家に着くと、奈乃花の母親がエプロン姿のまま、二人を玄関まで出迎えた。
少し歳を重ねてはいるが、その優しい笑顔は昔のままであった。
「あら?」
「お母さん、イチだよ。高遠一夜。昔、うちの隣に住んでた子」
「まぁ!あのイチくん?」
「どうも、ご無沙汰してます」
一夜は奈乃花の母親に向かって、丁寧にお辞儀をした。
「本当に久しぶり。立派になったわねぇ」
「上がってもらってもいいでしょ?」
立派な青年へと成長を遂げた一夜を、右手に頬を当てながら感慨深げに見つめる母親に、奈乃花が促した。
「ええ、もちろんよ。今、お茶入れてくるわね。紅茶の方がいいかしら」
「あっ、お気遣いなく」
「いいの、いいの。お母さんも久しぶりにイチに会えて嬉しいんだよ。さ、上がって」
奈乃花の言うとおり、母親はとても嬉しそうな足取りで、台所へといそいそと歩いていった。
一夜は言われるままに靴を脱ぐと、奈乃花の後へと続いた。
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