535人が本棚に入れています
本棚に追加
奈乃花は、まるで見えているかのように、階段を一歩ずつ上がっていく。
そして、廊下の角を曲がると、自分の部屋へと一夜を導いた。
「座って」
「ああ、ありがと」
奈乃花の部屋は綺麗に整えられていて、何一つ変わらず昔のままだった。
壁に掛けられた奈乃花の手描きの絵も、木製の勉強机も、ピンクの花柄のカーテンも。
まるで、あの頃に戻ったかのような気持ちになる。
「この部屋、懐かしいなぁ」
「十年ぶりだもんね。でも何も変わってないでしょ」
「だからいいんだよ。あっ、そのグランドピアノも懐かしいなぁ。よく俺が曲を弾いて、ナノカがそれに合わせて歌ってたよな」
一夜は奈乃花の後ろにある大きく綺麗なピアノを見て言った。
そのピアノは、埃ひとつ被っておらず、丁寧に磨かれてある。
「そうそう。私、全然ピアノ弾けなかったのに、イチと同じピアノが欲しいってわがまま言って買ってもらって。結局弾くのは、いつもイチだったよね。イチの演奏ってほんとに上手だったもん。でも、あれから少しは私も上達したんだよ」
最初のコメントを投稿しよう!