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「ジル、着いたよ。起きなさい」
ジルと呼ばれた娘は、横たえていた体をゆっくりと起こし、目を開けた。
馬車の窓から飛び込んでくる光が眩しくて、目を細める。
「…おはよ。ディーン」
眠そうに挨拶をする彼女の視線の先には、中年というにはまだ若い男ディーンがにこりと微笑み彼女を覗き込む。
「おはよう。もうお昼時だけどね。早くしないと置いていってしまうよ」
ディーンはそれだけ言うと、くるりとジルに背を向けて早々と馬車を降りてしまった。
「えっ、ウソ!待って!」
慌てて自分の荷物を抱えて、ジルは馬車を飛び降りた。
「さぁ早く教会に行かないと。皆がお前の歌声を待ってるよ」
振り返りながら話すディーンの先には、たくさんの木々に囲まれた街が見える。
街の中央には、とりわけ大きな木がひょっこり頭を覗かせる。
正午を知らせる鐘が鳴り響き、ディーンとジルを歓迎した。
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