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厨房は麺を茹でるための鍋の熱気で店内より暑かった。
だからラーメン屋『大次郎』の店員は全員が頭にタオルを巻いている。
汗がラーメンに入らないようにだ。
その中で黙々と葱を切る少年がいた。
タオルは目が隠れるくらい深々と巻かれ、何も言わずに葱を切っている。
「おい、メンマ!1番のチャーシュー上がってるから運んで!」
「…はい。」
メンマと呼ばれた少年は葱を切る手を止めラーメン丼をおぼんに乗せた。
「…お待ちどう様でした。」
静かに客の前にラーメンを置く。
「あれ?俺頼んでないけど…」
「…すみません」
メンマはおぼんにラーメンを載せ、厨房へ戻った。
「…違いました。」
メンマは、先輩スタッフにそうつげた。
「はっ!?何やってんのマジふざけんな!」
理不尽だが、これが日常だ。
この店で起こる全てのミスはメンマに降り懸かる。
その度に顔以外の部分を殴られる。
今は腹部にけりを入れられた。
「…つっ!…すいません」
メンマは痛みを堪え、再び葱を切り始めた。
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