第一章

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翌日。いつも通り登校を完了すると、止む気配がミクロ単位でも全くない暑さに奪われた体力を回復するためノートで扇ぎながら椅子の背もたれにだらしなく寄りかかっていた。しばらくそうしていると、 「おーっす。」 というやや高めの声と 「おはよう。」 という落ち着いた声が聞こえた。どちらかというと後者の声のほうが癒される。挨拶されたら返すのが万国共通の礼儀ってもんだ。俺も従って声のする方向を向いた。 「おす。」 そこには予想通りの柳瀬さんと夕乃さんがいた。夕乃さんは暑そうにタオルを顔に当てている。運動しているせいか、新陳代謝もいいのだろう。一方柳瀬さんは長い黒髪を垂らして平然としていた。汗ひとつかいていない。この人に生体反応は確認できるのだろうか。 そんなことを疑っていたら柳瀬さんがニヤッと笑った。 「今度相手は9組なんだよね。」 その通りなので相槌をうつ。 「9組といえば?」 この方は何を訊くのだろうか。深く考えることもせず言う。 「開幕戦の勝者でしょ?」 すると柳瀬さんはわざとらしくため息をついて夕乃さんを見る。夕乃さんはやっぱりというふうに苦笑いをしていた。はて。間違ったことは言ってないと思うんだが。 「ナスくんは分かってないなあ。アレだよ。ア・レ」 例によって野菜呼ばわり。これは流すことに決定したので気に止めない。それにしてもなんだ。暑さで頭は回らないのでノートで扇ぎながら考えるふりをしたあと、 「分かんない。」 すると柳瀬さんは呆れたという顔をしてから言った。 「ったくナスくんは…。9組といえばマッチでしょ。」 思い出した。柳瀬さんと夕乃さんの友達であるマッチこと町田さんは9組なのだ。あの快活少女の相手となるとなんだか厄介なことになりそうな気がして、若干気が滅入る。それにしても9組といえば町田さんなのか?そんなに有名なのだろうか。 「マッチは手強いよ~。テニス部の主力なんだからね。」 あらかた予想はできていたが、テニスの腕は相当らしい。この学校のテニス部は確かそれなりに強かった気がする。その主力となれば実力は明白だ。
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