第一章

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「着いた。」 テルの声で覚醒した俺は暫し呆けていたが、アナウンスの声で意識が完全に帰還し慌てて電車から降りた。 改札を出て駅西口へと向かう。さすがに県下の主要都市というだけあって人が多い。ホームの数は二桁にのぼるし、立派な駅ビルもある。都会に来たって感じがグッとアップする。 駅から出た後はやたらでかい駅前ロータリーを抜けて行き先も分からないので、ひな鳥のようにひたすらテルの後に続いた。 そういえばテルは漫画やらゲームやらいろいろと持っているが、なんでそんなに金があるんだろうか。一回テルの家に行ったことはあるが、中には入らなかった。というのもテルに拒むような雰囲気があったからだ。結局中は見られなかったが、立派な家ではあった。俺の予想だが、テルの部屋は物で溢れているんじゃないかな。そういえばテルの親は見たことがない。家に行った時も人の気配はしなかった。もしかしたら何か家庭の事情があるのかもしれないが、そこに突っ込むのは野暮というものだ。 まあ、どっちにしろ俺みたいな奴が言えたことではないが。 15分くらい歩いただろうか。そんなことを考えていたらテルはとある建物の前で止まった。どうやら貸しビルのようだ。地下があるらしく下へと続く階段があった。テルはこっちだというふうに俺を一瞥してから階段を下りていった。なんだか怪しい雰囲気はするが、来てしまった手前入らざるにはいられない。テルを追うように下りて行った。 階段を下り終わるとスリ硝子のドアがあった。テルはここだというふうに俺を見る。そうしてテルはドアを開けて入っていった。俺も後に続いて入った。 そこはゲーム屋だった。外観から比べて店内は意外と広かった。所狭しとゲームの棚が続いている。テルは目当ての物を探しに奥へと入っていった。 せっかくなので店内を回ることにしたのだが、回ってびっくり。この店は中古も新品も取り扱っているようなのだが、近所の中古屋じゃ絶対に置いてないレアなゲームが相当数置いてあったのだ。俺もゲーマーの端くれなので、そこそこゲーム関係には詳しいと思っていたが、まさかこんな場所があるとは。驚愕と興奮が顔に溢れて出ていたのだろう。やけに高い棚の前でいろいろと漁っていたら、所望のゲームを片手にテルが寄ってきた。 「気に入った?」 振り向くとテルは口の端を上げて笑っていた。
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