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俺は異様に悪い視界の中必死にそれへと手をのばしていた。
「もう少し…だ。」
指先がかすかに触れる。もっとのばす。とどいた。後は重力に任せる。
「よし…。」
ミッションコンプリートだ。しかしここで意識が薄れ始める。ここで意識を失ったら何もかもが水の泡だ。懸命に起き上がろうとする。しかし、そう思うだけで体はいっこうに反応しない。上体まで起こしたが力尽き、倒れる。
「ちくしょうが…。」
自分の体に悪態をつく。そして次第に意識は薄れていった。
目を開けるとそこには刻々と時を刻むまだ新しい四角い目覚まし時計が。以前愛用していた時計は先日のサルの攻撃の前にあえなく大破した。もちろん、サルを私刑に処したのは言うまでもない。弁償もしてもらった。サルの金なので高いやつにした。サルは揉み手をしながら交渉をしてきたが、軽くあしらってやった。
伸びをしてから前の時計の2倍くらいの値段がした時計を見る。時刻はちょうど9時を指していた。盛大にあくびをする。視界が潤んだ。外で立ち話をしているおばさんたちの声がする。ふと部屋を見ると、小型テーブルの上に鞄がのっていた。なんであんなものだしたのだろうか…。その時、最悪の事態を想像した。もう一度時計を見る。無情にも時計は9時を少し過ぎたところを刻んでいた。
静寂がこの部屋を占拠する。外で立ち話をするおばさんたちの声が大きく聞こえた。
「遅刻だあああああ!!」
俺はベッドから光の速さで飛び出た。
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