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学期初日というのは得てして休み時間と授業が曖昧になる。通常でいくと授業中なのだが、矢部が職員室に行っているせいで教室内はさながら休み時間だ。あちこちで夏休みはどうしただの、あれが楽しかっただの、あれが美味かっただの、そんな声が飛び交っていた。
「ナスくん、久しぶり。」
不意に声をかけてきたのは例によって柳瀬さんだ。夏休み明けということで、日焼けしているかと思えば通常と変わらず、色白の顔と黒目がちの目をこちらに向けていた。
「おお、久しぶり。」
「夏休みはどうだった?」
「ん、まあ、普通かな。」
これといってなかった。電車でちょっと遠出しただけだ。あとはあの5人の誰かと遊んでいた。
「普通ってなにさ。」
「いや、だからいつもつるんでる奴らと遊んでたってだけだよ。」
「ふ~ん。」
「柳瀬さんは部活とかで忙しかった?」
そう言うと柳瀬さんはよく訊いてくれたというふうに頷いてから愚痴をこぼし始めた。要約すると部活で夏休みのほとんどを潰されたらしい。ひと通り柳瀬さんの愚痴を聞いてあげてから、横に視線を移す。
「夕乃さん、久しぶり。」
片手をあげてフレンドリーに言ってみた。
「あ…久しぶり。」
夕乃さんは夏休み満喫しました!って感じで見事に小麦色になっていた。大方、バスケ部の練習だろうか。夏休みに入ってからバスケ部の大会があったので、夕乃さんを応援に行こうと柳瀬さんたちと計画していたのだが、3年生最後の大会ということもあってメンバー落ちしてしまったのだ。結局計画も根本から潰れてしまった。
「夕乃さん、焼けたね~。」
「うん。部活してるとこうなっちゃう。」
そう言って小麦色の腕をさする。
「部活って結構忙しかったの?」
「うん。夏休み中はほとんど休みなかったし、部活がある日は絶対走るし、合宿もしたんだけど、もうメニューがすごくハードで体調崩しちゃう子もいて…」
夕乃さんも柳瀬さんよろしく愚痴をこぼしていた。あんなにバスケが好きそうだった夕乃さんがここまで言うのだ。そりゃもう想像を絶する厳しさだったのが窺い知れる。
そうして愚痴大会を開催していると、矢部が大量のプリントを持って帰ってきた。
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