第一章

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初日は午前中で終わりなので、学校に来てからそんなにしないうちに放課となった。矢部に渡された膨大なプリントは机の中に押し込んだ。 「よう、帰るか。」 顔を上げると広太とおまけにサルがいた。 「陽平、今日寝坊したんだって?」 なんでこいつが知っているんだ。広太を睨む。広太は悪いと言って頭を掻いていた。まったく余計なことを。 「そうだよ。悪いか?」 「じゃあ、本当のこと矢部に言えよ。」 「黙れ。」 サルはニヤァと笑う。気持ち悪い。 「おお?恥ずかしいんか?ん?」 「…。」 こいつマジうざい。 「おいおい、だんまりかよぉ?」 サルの笑みは残忍なものに変わる。 「っ…。」 絶対ぶっ殺してやる。 「なんなら俺が矢部に言ってきてやろうか?"那須君は恥ずかしくて本当のことが言えませんでした"って。どうなんだよぉ、陽平さん?」 サルは残忍な笑みを一層深めた。広太が"その辺にしとけ"とサルに止めるように促す。しかしサルの耳にはそんなことは届いていないらしく、楽しそうにこちらを見つめて、いや、見下している。 「くっ…。」 もう許さねー。あとで思いっきり泣かしてやる。 思いきり拳を握った時、教室の後ろのドアで声がした。 「成岡と工藤はいるか?」 この低くて太い声、この高校の生徒ならあの猛者を知らない者はいないだろう。振り向くとそこには生活指導担当、体育教師の岩村豪司がいた。 背は俺より高い広太よりも遥かに高い。ドアの所に立つとその横幅で通れないほどだ。 背後でドサッという音がする。見るとサルが鞄を落としていた。それだけじゃない。冷や汗を垂らしながら震えていた。そう。今のサルにとって岩村は天敵なのだ。それは一学期に遡る。 テストで見事赤点をとってしまったサルは夏休み中、補習を受けなければならなかったのだが、サルはというと全部すっぽかしたのだ。サボると休み明けに岩村の説教があるのは既知のことだったが、サルはすっかり忘れていたらしい。ツケが回ってきたというやつだ。
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