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藤吉郎が見た横顔。
年の頃で言えば、自分より、二、三上くらいか。
風貌は野武士のような恰好だ。
方袖は肌けさせて、左半身は露わになっており、腰には瓢箪をぶら下げている。
髷の結い方も雑。
ただ顔つきは、どこか気品のある、凛々しい顔立ちをしていた。
口元と顎には髭が蓄えられていたが、綺麗に整えられ、その髭がまた、その将の気品を引き立たせているようだった。
そして何処か淋しい目をしていた。
少しつり目で、一言で言えばキツい目つき。
その頬を辿る涙が、その目から零れ落ちたものだとは、藤吉郎にとって、想像しにくいものだった。
そして思った。
あれは、大切なものを失った時の目に似ている。
世は戦国。
力なき百姓の出だった藤吉郎は、戦の度にそう言うものを幾度となく目の当たりにして来たから、何となくそう感じたのだ。
(あれは…涙か?)
藤吉郎は、歩を進めながら交錯したが、今は、馬だ。
そう言い聞かせながら、何とか自分を保った。
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