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首尾よく藤吉郎達は野武士風の将を正面に見て取れる茂みへと、身を隠すことに成功した。
茂みの隙間から、将の様子を伺う。
横顔とは違う凛々しさに、見とれそうになる自分に藤吉郎は気付いた。
今は、馬だ。
もう一度、心の中で念を押す。
凛々しい顔立ちの野武士風の将は、大木を背に少し視線を上げ滝を見ている様子だった。
もう一人の小綺麗な着物を来た将は、その横に控えている。
その様子を見ていた藤吉郎は、厄介な事実に気付いた。
その横に控えた将の後ろには、なんとも大振りの槍が立てかけてあった。
見張りをしていた茂みからでは一本杉の影になって、見えなかったのだ。
「失敗したなぁ」
藤吉郎は小さく呟いた。
小六と矢吉は、それを聞いて不安になったが、動きを見せない藤吉郎に付き合うしかなかった。
これまでの経験から無茶だけはしない奴だと知っていたからである。
藤吉郎は、その不安要素を把握しつつ、喜助と太平の動向を探っていた。
どうやら、準備は整っているらしい。
ただ、やはりあの槍が気になる。
一太刀を浴びる覚悟はあるにしても、槍と刀では致命傷の確率が遥かに違うからだ。
相手の気を引くにしても、何か策はないものだろうか。
藤吉郎がそう思いを巡らせている矢先の事だった。
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