六つ指

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「又左 茂みの中に何かおるぞ」 藤吉郎は息を飲んだ。 何か策を そう思案している間に、野武士風の将の目つきが変わっていることに気付かなかったのである。 「しまった」 そう思った刹那。 藤吉郎の左頬を掠め、重厚感のある物体が茂みの葉を巻き上げ疾風のごとく通り過ぎ、背中の方で鈍い音が聞こえた。 温かい物が跳ね返って来る。 反射的に後ろを振り返り確認すると、物体の正体はあの大槍だった。 跳ね返って来た、温かい物は血で、その出所は、矢吉の腹からだった。 一目で絶命しているのが理解出来るほど鮮やかに貫かれている。 事実、矢吉は声も上げることすら出来ず、絶命していた。 「小六」 藤吉郎は「逃げろ」 そう続けようとして、振り返ったが言葉を失った。 藤吉郎の倍は有ろうかという、巨漢の小六をいとも簡単に、足様にし、首もとには、既に刃が突き立てられていた。 その光景を見た藤吉郎は、愕然とした。 小綺麗な着物を着た、又左と呼ばれる武将は、自分より大きいとは言え、それでも小六から比べたら小さいものだ。 藤吉郎は、野武士風の将を睨み付ける素振りをしながら、一方で、喜助と太平の安否に思いを巡らせた。 野武士風の将は、一歩も動いた形跡はなく、喜助と太平の気配もない。 どうやら異変に気付き逃げ出したようだ。 この時、藤吉郎には、裏切られたという思いよりも、安堵感の方が心を占めたが、小六そして、自分の危機には変わりないことを思い出し、改めて野武士風の将を睨み付けた。
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