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矢吉を殺された怒りと
今、自分と小六が置かれている状況を踏まえて
威嚇の意味も込め睨み付けた藤吉郎だったが
その野武士風の男と視線がぶつかった瞬間、背中に凍るものを感じた。
しかし、目を背けては、そっちの方が危ない気がして、恐怖に耐えながらも
じっと見据えた。
その瞬間、ある程度の覚悟も出来た。
「ほぅ」
野武士風の将は、何かに感心したかのような声をあげ、その冷ややか目で藤吉郎を見ている。
又左が足元の小六を見据え口を開いた。
「どこぞの手の者か」
「はっ 見ての通りの通りすがりの野盜だよぉ」
顔を踏みつけられたまま、小六が毒づく。
「変に隠し立てすると命はないぞ」
そう言うと又左は、踏みつけている足に力を込めた。
「して、その通りすがりの野盜が儂に何の用じゃ」
野武士風の将は肩肘をついたまま、相変わらずの冷ややかな眼差しで口を開いた。
今にも押しつぶされそうな重圧の中、藤吉郎は、声を絞り出した。
「こちとら食うや食わんやのその日暮らしでね。旦那達のそのお馬さんを拝借しようかと思案しとったわけですよ」
と、出来る限りの強がりでにやけて見せた。
「ほぅ 馬とな」
野武士風の将がそう言うと
「殿 簡単に信じてはなりませぬ」
と、すかさず又左が口を挟んだ。
野武士風の将は、分かっていると言わんばかりに、軽く溜め息をつくと、刺すような眼差しでまた、藤吉郎を見て来た。
藤吉郎は、その眼差しに脅えながらも、ある思いがよぎり口を開いた。
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