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その空気を察したのか小六は、空を見ていた目を瞑り、それでも柿を啜りながら
「はっ んなこと知らねぇよ」
と言うと、目を開いてゆっくり体を起こし、種と芯だけになった柿を川に勢いよく投げ捨てて続けた。
「身分もねぇ、金もねぇ、力もねぇ、指くらい人より多く付けてやっかっちゅう、神様の優しさなんじゃねぇのぉ」
そう言うと小六は、また土手に背を預け、気持ち良さそうに目を瞑った。
「小六」
それ以上、藤吉郎には言葉が続かなかったが、感謝の眼差しで、眠りに就く小六を見詰めていた。
幼少の頃から好奇の目に晒されて来た「六つ指」であったから、藤吉郎にとっていい思い出など、一つもなかっただけに、そんな小六の言葉が妙に嬉しく、何より有り難かった。
「要らねえならくれ」
目を瞑ったまま小六が言う。
「誰がてめぇなんかに」
藤吉郎は、我に返り一目散に柿を啜った。
その気配を感じながら小六は目を瞑ったまま、少しだけにやけた。
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