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甘い柿も啜り終わり、口元の汁がそろそろ渇こうかとした頃
穏やかな秋の日差しと爽やかな風に撫でられて、藤吉郎と小六は、浅い眠りに誘われていた。
丁度その時、遠くから声が聞こえて来た。
「藤吉郎~、小六~」
二人は同時に体を起こし、声のする方へ顔を向けた。
片目をまだ睡魔から解放できないまま。
「矢吉」
藤吉郎の確認の後に、小六が駆け寄って来る若者に投げかけた。
「どうしたんじゃ」
乱れた呼吸を必死に整えながら、若者は言った。
「獲物じゃ。あらぁどこぞの野武士か何かじゃ」
余程、焦って来たのだろう、若者は吐きそうな勢いで、咳込んでいる。
「ほうか。して頭数は」
背中をさすりながら藤吉郎が尋ねた。
「二人じゃ」
少し呼吸の整って来た若者が答えた。
「場所は」
今度は小六が尋ねる。
「一本杉、あの一本杉の下じゃ。滝のあるところの。今、喜助と太平が見張っとる」
「そうか 急ごう」
そう言うと藤吉郎は、足取りも軽やかに駆け出した。
体の小さな藤吉郎ではあったが、その分、走るのは得意だった。そして早い。
どんどん遠くなる背中を見て、小六も遅れてなるものかと駆け出した。
「矢吉遅れんな」
の、一言を残して。
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