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やがて、小六と矢吉が茂みへとやって来た。
やはり矢吉は、肩で息をし、今にも吐きそうになっている。
藤吉郎は、そんな矢吉を尻目にもう一度あの言葉を口にした
「気をつけろ あらぁ只の野武士じゃねぇ」
その言葉に今度は小六が反応した。
「どういうことじゃ」
「見ろ」
藤吉郎はそおっと、蜻蛉でも捕まえるかのように静かに指差すと
「あっちの男は確かに風貌からして如何にも野武士って感じだが、こっちのほうは野武士にしちゃ小綺麗過ぎる」
「ほお そう言われれば確かに、けどなぁ」
と、言葉を続けようとした小六を遮って藤吉郎は続けた。
「何よりあれを見ろ」
と少し指先を左に動かし、馬を指差した
「馬がどうかしたのか」
小六は訳が解らないと言うように首を傾げて聞いた。
「分かんねぇかなぁ」
「勿体つけんなよ」
小六が急かす。
「具足だよ。具足。只の野武士にしちゃあ、あらぁ立派過ぎるだろぉ」
藤吉郎は、得意気に腕組みをしながら少しだけ背中を反って言った。
なる程と言わんばかりに小六をはじめ一同が頷く。
更に藤吉郎は続けた
「こいつは、うつけんとこの子分かもしんねぇなぁ」
「うつけのか」
小六は小声ながら、目一杯の驚きを隠さなかった。
「あぁ 多分な」
そう言うと藤吉郎は、また茂みの向こうへと目をやった。
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