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「いいか、まず儂と小六、矢吉で、あの二人の気を引く その隙をついて喜助と太平であの馬を頂くっちゅう寸法じゃ」
藤吉郎は眉間に皺を寄せて更に続けた。
「相手は鍛えられた侍じゃ、到底喧嘩じゃ勝てん。虚をついてなんぼ、とっとと盗んでずらかるのが一番じゃて」
藤吉郎達がいくら野盜と言えど、毎日訓練された武士と力の差は歴然だった。
何より得物が違う。
かたや毎日、手入れされた切れ味鋭い業物に脇差し、更には槍。
かたや藤吉郎達の得物と言えば、草刈り鎌に、精々盗んでも手入れが行き届かず錆び付いた脇差しくらいのものだった。
やり合うとかやり合わないとかいう以前の問題なのだ。
ただ食うや食わずの日々。
やはり明日の食い扶持は是が非でも欲しいところ、そう言うせめぎ合いの中、藤吉郎の中での最大の妥協点が馬一頭だったのである。
「じゃあ 行こう」
藤吉郎は、小六と矢吉に首を振って促した。
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